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機動戦士ガンダムUC[ユニコーン] MOBILE SUIT GUNDAM UNICORN


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SPECIAL

福井晴敏インタビュー 2006.11.03

ついに福井晴敏によるガンダム新作小説が連載開始! ベストセラー、映画化作品など大きな実績を持つ気鋭の作家が、なぜガンダムを小説で書こうと思いたったのか? その真意を徹底的に探るため、直撃インタビューを敢行した。

”可能性”の象徴・ユニコーン

まず今回、『機動戦士ガンダム ユニコーン』というタイトルにした理由とは何なのだろうか?

”可能性”の象徴・ユニコーン

「ユニコーンは今回のキーワードの“可能性”を象徴する獣なんです。リルケの詩集に、そのことを示す一節があります。先月号にも書いたとおり、最初のガンダムとは内容だけでなく作品のあり方自体も“可能性の物語”だったと思っています。“ニュータイプ”という言葉が受け入れられたのも、過去に例のないアニメを作った人たちが“人類の進化”を語るから説得力があったということなんですね。

 でも俺たちは、そこで示された“可能性”を腐らせてしまったのかもしれない……確定したスキームを追って商品的な洗練を始めると、ドラマの方が衰退して求心力を失い、結果としてマーケットも縮退する事例が世にけっこうあるんです。であれば“こんなもの、どうやって売ったらいいの?”と疑問が出るくらい新しいものを提示し、知恵を絞って可能性を見いだして売る。それがマーケットの活性化にもつながると思うんです。よく見知ったガンダムを期待している人たちには戸惑う向きもあるでしょうが、逆にそこに“可能性”を見てほしいですね。

 また、これは小説だけでも独立して読めて、なおかつ大人向けにしようと思っています。ファーストガンダムが直撃した子どもたちは今は30代ぐらい、世の中を動かす大事な立場になっているはずで、その人たちに向けて語りたいんです。俺も“ガンダム世代”とよく言われます。でも“ガンダム”の象徴するものは何か? 商品として洗練されたガンダムを見ても、本質はなかなか理解できないと思うんです。“ガンダムって本当はこういうもの”という本質、つまり“可能性の物語”をガンダム世代の俺から世間に発信したい。もしそれが大勢の支持を得られるなら、それこそが30年前に俺たちに出された“君は生き延びることができるか?”という“問いかけ”への回答にもなると思っています。

 これはガンダムというもののマイルストーンでもあるんです。人間も27〜28歳までにどこで何をしてきたかで、その後の人生が決まりますよね。であれば、30歳を目前にしたガンダムも一生を占う大事な時期を迎えているわけです(笑)。そこに文芸発のガンダムがスタートする巡り合わせはもはや必然で、そんな大きな意味で“可能性”を追及したくて、ユニコーンという題名にしました」

宇宙世紀百年を俯瞰する物語

可能性を秘めたガンダムユニコーン。では、その機体が飛翔する物語の舞台とは?

宇宙世紀百年を俯瞰する物語

「いわゆる『宇宙世紀もの』になります。しかし、物語は宇宙世紀元年からスタートします。年表上の局部を選んだ外伝的な話よりは、もっと全体を俯瞰した物語を手に入れたかったからです。U.C.0001に起きたある重大な事件が連綿と地球圏に影響を及ぼし、地球連邦とジオン公国の一年戦争にも微妙に関与しているんです。メインの年代はU.C.0096に設定し、その時代を生きる主人公たちが百年近くを経たその謎を背負わされる。さらにその謎を通じて宇宙世紀百年を俯瞰し、どんな時代だったのかと意味を振り返えるようなものになっていきます。

 シャアの反乱から3年経って、年表的にはU.C.0100に“ジオン共和国の自治権返還”という大イベントを控えた時期です。宇宙世紀では全人類が戦争の当事者になる大戦争は実は一年戦争ぐらいで、あとは内紛やテロばかりなんです。シャアの反乱にしても、他のコロニーの人たちには日本人が9・11テロを見る程度の遠い距離感なんでしょう。みんなが戦争を忘れてもいいかなと思い始め、国家としてのジオンも解体される直前、一年戦争を直接体験していないし、その後の歴史にも何の興味も持たない普通の少年が、ガンダムに乗ることで世界の実相を見ることになるわけです。そしてその結果、後に何をするか決断する。これが今回の物語のカギになります」

安彦良和が描く「ガンダムの世界」

今回の小説では安彦良和がキャラクターデザインと挿絵を担当する。福井晴敏にとっての安彦良和の魅力とは?

安彦良和が描く「ガンダムの世界」

「小学生のころ『アリオン』の漫画を見て、“ガンダムってこの人の描いた漫画なんだ”というのが俺の最初の安彦さんの認識で、もちろんその誤解はすぐ友人に修正されました(笑)。最初に感じたのは、人物の“肉感”ですね。絵に何とも言えない触れそうな感じがする……。そのころは俺の目に触れる印象的なアニメの絵はほとんど安彦さんと言って良い時代でした。

 そして、5年ほど前に安彦さんの『虹色のトロツキー』や『王道の狗』など歴史漫画を改めて読んだとき、あの絵で大河ドラマをやっている面白さを感じて驚きました。まさに俺の目指しているベクトルといっしょなんです。ファーストガンダムで夢見た“可能性”、あるべき進化のかたちのひとつは、安彦さんの作品に感じたんです。自分が新ガンダムを作ることになったとき、その要素こそが必要なんだ、戦力として至上のものだと確信しました。また、読者はどうしても字面よりも絵面を先に見るわけで、そのときに安彦さんの絵なら“これなら知ってる”と多くの眠れる層を刺激することもできるだろうと。

 もうひとつ、小説を書く上では、宇宙世紀の様々な要素、社会情勢や政治を詰める必要があるんですが、安彦さんの絵は“これが宇宙世紀だ”と決めてしまうところがあります。最初のガンダムも、絵的には安彦さんのキャラクターを出発点にしてブラッシュアップした部分が多いわけで、原点はすべてここにあると感じました。今回の文章を書くとき、頭の中ではアニメーション映像を思い浮かべるようにしていますが、読者は実写的な映像を思い浮かべると思います。そのときにもガンダムとしてビジュアルをまとめる力が、安彦さんの絵にはあると思います」

「ガンダム世代」としての責務

さて、アニメではなく小説を媒体としてガンダムを展開することの意義について福井晴敏自身はどう考えているのか? 
数々の賞をとり次々に映画化もされる売れっ子小説家が、なぜ今ガンダムなのか?

「ガンダムがノベライズではなく、小説という形式でボリュームたっぷりに書ける時代が、ようやく来た。それに尽きます。これまでフィルムや書籍で綴られてきた歴史のディテールが積み重なって、やっと小説を支えるだけの情報量が得られたということです。今は漫画を卒業して小説という時代ではなく、逆にいかに小説を漫画に近づけていくかという時代ですが、俺は自分が立っている場所から動くつもりはありません。『亡国のイージス』、『終戦のローレライ』、『オペレーション・ローズダスト』と来て次にガンダムユニコーンという流れは、何一つ破綻していない一貫したものです。逆に、それぐらいの実績がないとガンダムに手をつけられなかったとさえ思っています。

 小説を通じて、“ガンダムというコンテンツというものの本質はこうだったのか、それはみんな夢中になるわけだ”と、ぜひ多くの読者に言わせたい。それが今回の挑戦です。そうすれば、俺個人が単にガンダム好きということを超えて、“ガンダム世代”という言葉が世の中で流通する意味を、みんなもっと考えるようになると思うんです。

 なにか新しいものを期してガンダムに挑むことは、ガンダム世代に属する俺の一つの責務だろうし、文芸界に対しても最高のカンフル剤になると思います。ガンダムも文芸も作家も、共同幻想にすぎないとしても、だったら逆にそれにどうやって実を入れ、地に足のついた本当のステータスとして機能させていくか。これは、われわれガンダム世代が全方位的に取り組む必要のある課題なんです。それは『ガンダムユニコーン』をしっかり書き上げることで、それはおのずと伝わると確信しています。

 すでに胎動は感じています。後は結果を見てください。このインタビューを読んでくれた方は間違いなく小説も読んでくださると思います。ぜひお楽しみに」  ガンダム世代を代表し、福井晴敏が渾身の筆をふるう小説『機動戦士ガンダムユニコーン』、いよいよ次号から発進だ!
【2006年11月3日 角川書店にて/インタビュー構成:氷川竜介】


<角川書店 『月刊 ガンダムエース』2007.1月号より転載>

福井晴敏プロフィール

福井晴敏公式ホームページ
1968年生。東京都出身。千葉商科大学中退。
1998年『Twelve Y.O.』(講談社刊)で第44回江戸川乱歩賞受賞。
1999年『亡国のイージス』(講談社刊)では第2回大藪春彦賞、第18回日本冒険小説協会
大賞、第53回日本推理作家協会賞。
2002年『終戦のローレライ』(講談社刊)では第24回吉川英治文学新人賞、第21回日本冒険小説協会大賞を受賞。
2005年3月〜7月にかけて、原作が3本映画化された。
2006年3月、大作巨編『Op.ローズダスト』(文藝春秋刊)が発売された。
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